

スタッフへの目標設定を「頑張ろう」という精神論で終わらせていませんか?
スタッフの昇給・賞与を実現し、かつ会社の健全な利益を確保するためには、明確な「数字の根拠」が必要です。本記事では、新人スタッフの目標の設定方法を労働分配率から紐解き、目標を具体的な行動(KPI)へ落とし込むためのシミュレーションまでを解説します。

接骨院の経営において、スタッフ個人の目標設定が曖昧であってはなりません。新卒であっても、スタッフには必ず数字のセットアップを行うべきです。この具体的な個人予算の設定には、経営上の明確な目的があります。
売上や利益を追求することは、スタッフ個人の成長と給与に直結します。具体的な個人予算を設定し達成することは、スタッフ個人の昇給や賞与の実現を会社が応援するという、相互の目的の共有につながります。
売上や利益は、単なる数字ではなく、会社が永続的に発展するための「未来創造費用」を確保するためのものです。スタッフの成長段階と会社の利益率を両立させる具体的な個人予算を設定することが、組織全体の持続的な成長には不可欠です。

スタッフの目標設定は、個人の習熟度や経験年数に応じて、段階的に引き上げていくのが理想です。
リグアでは、会社の利益を確保しつつ、スタッフへ賞与を適正に支給するために、以下のような「月間売上目標」の基準を設けています。
【月間売上目標の例】
・新卒スタッフ:85万円以上(入社1年目の10月以降)
・2年目スタッフ:100万円以上
・3年目スタッフ:120万円以上
※当社基準
もし目標を達成できないスタッフが多いのであれば、個人の能力不足というよりはむしろ、院内の「教育体制」そのものに根本的な課題があると考えられます。
※当社基準
なぜ、新卒スタッフの目標が「85万円」なのか。 当社では、接骨院経営の指標として「労働分配率は42%」を適正基準と考えています。この数字に基づくと、賞与まで含めた健全な経営を行うためには、新人であっても85万円の売上が必要不可欠となります。
その背景には、昨今の「初任給の高騰」があります。
〇初任給の現状と会社負担
昔に比べて初任給の相場は上がっており、現在は額面で26万~27万円程度が一般的です。ここに社会保険料や交通費を含めると、会社が負担するコストの総額は約30万~31万円になります。
〇労働分配率42%が基準
仮に、新人の売上が「80万円」だった場合で計算してみましょう。 労働分配率42%を適用すると、人件費として使えるコストは次のようになります。
80万円×42%=33.6万円
ここから毎月の給与(約31万円)を差し引くと、手元にはわずか2万数千円しか残りません。これでは、毎月の給与を払うだけで精一杯となり、夏・冬の賞与を捻出する余地がなくなってしまいます。
スタッフに賞与を支払い、かつ経営の健全性を保つためには、新人であっても「最低85万円」の売上が必要である。 これが、当社がこの目標数値を設定している理由です。

目標を達成するためには、精神論ではなく、具体的な行動計画(KPI)を設定するプロセスが不可欠です。
経営者が行うべきは、単に目標額を掲げることではありません。まず予算(ゴール)を設定し、そこから逆算して「必要な施術数」「成約率」「単価」を割り出し、最終的に「必要な集客数(新患数)」を導き出すというプロセスを明確にすることです。
ここでは例として、月間売上100万円を作るためのKPI設定をシミュレーションします。
まず、保険メニューによる売上を試算します。 月間の営業日数を22日、1日あたりの平均来院数を13人と設定した場合、総来院数は286人となります。
ここで、保険メニューの単価(2部位程度)を1,450円と仮定すると、売上は414,700円となります。 この金額を、スタッフが欠勤なく勤務すれば達成できる「確定売上」と定義します。
・月間来院数:22日×13人=286人
・保険メニュー売上:286人×1,450円(平均単価)=414,700円
確定売上を算出したら、目標達成に必要な「自費売上」と、そのための行動基準を明確にします。
目標売上100万円から、先ほどの確定売上(414,700円)を差し引くと、残りの585,300円を自費メニューで補う必要があることがわかります。
〇成約単価と必要件数の算出
多くの院では、自費メニューの成約単価基準を約7万円としています。 この単価に基づくと、目標の585,300円を達成するために必要な成約件数は以下の通りです。
必要成約数:585,300円÷70,000円≒8.4件
つまり、月間に9件の自費メニューを成約する必要があります。
最後に、目標件数を達成するための成約率を設定します。 自費メニューの提案における成約率は、スタッフの提案スキルを測る重要な指標です。
リグアでは、成約率の最低ラインを45%、理想を50%と設定しています。 もしこの数値を下回るスタッフがいる場合は、提案スキルに課題(技術不足)があると判断できるため、重点的な教育やロールプレイングの実施が必要です。

KPIを達成するためには、より緻密な現場管理と行動計画が必要になります。
目標達成を焦るあまり、見込みのない患者様へ闇雲に提案を行うことは避けなければなりません。それは失注を増やすだけでなく、地域からの評判を下げるリスクがあるからです。提案からの成約率を高めるため、院長は患者様を「確度」で分類し、提案の可否を管理します。
【確度分析の例】
・確度A(80%): 信頼関係が構築できており、提案対象とする。
・確度B(50%): 時期尚早のため提案禁止。確度がAに育つまで待つ。
院長は、スタッフが確度Bの段階で提案しようとするのを止め、適切なタイミングを見極める管理を行います。
スタッフの成績(売上、成約率、初診率など)を細かくモニタリングすることで、具体的な課題が見えてきます。
例えば、成約率が基準の50%に満たないスタッフに対しては、提案スキルに問題があると判断します。この場合、いきなり現場に出すのではなく、提案直前に院長がロールプレイングをチェックし、「OKが出るまで絶対に提案させない」といったルールを設け、技術や説明力を向上させる教育を行います。
目標から逆算して「提案すべきリスト(見込み客)」を作成した結果、人数が不足するケースがあります。この時、不足分を埋めるために既存の患者様へ無理な提案を行うことは「押し売り」となります。
リストが不足する場合は、外部からの「新規集客」で補う必要があります。「今月はあと5人の新患が必要だ」とわかれば、WEB集客だけでなく、イベント開催や地域でのPR活動といった、自ら動いて患者様を獲得するための具体的な「集客施策」を行動計画に落とし込み、実行する必要があります。
目標設定は、いわば「羅針盤」のようなものです。 羅針盤がなければ、船は闇雲に航海するしかありません。しかし、KPIという羅針盤を明確に設定することで、スタッフ全員が現在地(確定売上)と目的地(目標売上)までの距離(自費売上)を正確に把握できます。 そして、最適な帆の張り方(成約件数)を理解した上で、効率的に目標に向かって進むことができるのです。